工場や倉庫、オフィス等でIoTの導入を検討されている方は多いと思います。
・スマホや顔認識で開錠施錠ができるスマートロック
・重さで在庫量を把握し自動で発注処理をかけるスマート在庫管理システム
・インテリジェントなAIカメラによる人頭カウントなど
ビジネス用途のIoTデバイスが続々と出現しています。

これらのIoT機器を導入することによる業務効率や自社が提供するサービスの質の向上効果は絶大で、今後ますますビジネスシーンでのIoT導入は進むと考えられます。しかし、IoT機器をインターネットに繋ぐためのネットワーク環境構築は案外疎かにされがちです。
折角導入したIoTなのに、どうも調子が悪いと思ったら、接続のための無線通信に問題があったという事例は枚挙にいとまがありません。

重要なのは「受信感度」

重要なのは「受信感度」

無線通信の品質を決定づける最も重要なパラメータは受信電力レベルです。各IoTデバイスは、通常、基地局(アクセスポイント)に接続されます。

IoTデバイスから基地局へ向かう電波(上り電波)と基地局からIoTデバイスへ向かう電波(下り電波)、どちらもが十分な大きさでもって受信できる状態でなければ、通信に障害が生じます。無線機が、どの程度まで受信できるかを示す指標が「受信感度」です。

あるIoT機器の受信感度を調べてみましょう。

通信方式:WiFi2.4GHz
電波強度:RSSI-80以上の環境で安定接続
※出展:Smart Shopping社「スマートマットクラウド」商品説明サイト
https://smartmat.jp/characteristics/3414

「2.4GHzのWi-Fi規格で、RSSI -80以上」と記載されています。
RSSIとは受信レベルを意味する略語です。
-80とは、厳密には「-80dBm」と記載します。
0dBmが1mwを表し、-80dBmは1mwの0.00000001倍の電力です。
つまり、この製品は2.4GHzのWi-Fi規格で、0.00000001mwまでなら接続できますよ、ということになります。

「2.4GHzのWi-Fi規格で、RSSI -80以上」と記載されています。
RSSIとは受信レベルを意味する略語です。
-80とは、厳密には「-80dBm」と記載します。
0dBmが1mwを表し、-80dBmは1mwの0.00000001倍の電力です。
つまり、この製品は2.4GHzのWi-Fi規格で、0.00000001mwまでなら接続できますよ、ということになります。

この0.00000001mwが、この製品の受信感度となります。

受信感度はアンテナ端で観測される受信電力で定義されます。したがって、性能の良いハイゲインなアンテナを用いれば、アンテナ端ではより大きな受信電力が供給されることになります。アンテナがいかに重要であるかがお分かりいただけるかと思います。

もう一つ注意しなくてはいけない重要なこと

もう一つ注意しなくてはいけない重要なこと

IoTデバイスの多くはアンテナが目視出来ない場所に内蔵されており一体どのような性能を持ったアンテナが搭載されているかもほとんど公表 されていません。
アンテナの特性というのは、じつに曲者で、たとえアンテナゲインが表示されていても、それは「最大のゲインが得られる方向から飛んでくる電波を受けた場合のゲイン」であって、それ以外の方向は表示されているアンテナゲインよりも低いゲインとなってしまうのです。

この最大のゲインが得られる方向をアンテナの「主軸」と呼びます。

IoTデバイス側から見ると、アンテナの主軸の方向を、基地局の方向へ向けておくとよさそうです。
ただし、見通しが取れていれば・・・という前提条件が付きます。

IoTデバイスと基地局とが見通せない位置関係にある場合は、IoTデバイスへ向かって一体どの方向からより大きな電波が飛んでくるかは、周辺の什器や壁床などの建物の構造によって多様に変化します。

そもそも、IoTデバイスの設置向きを自由に設定できることは稀であろうと思います。これから設置しようとするIoTデバイスの主軸も一般的には不明です。結局のところ、よりよい通信環境を得るために私たちが取り得る手段は、「出来る限り余裕を持った受信強度が得られるように、基地局の設置場所を調整する」くらいしかありません。

あるいは、空間内の電波強度に余裕を持たせるため、複数の基地局を設置することも効果的です。

計測のやり方にも注意が必要

計測のやり方にも注意が必要

IoTデバイスを設置する場所に、実際にどれくらいの受信強度で電波が届いているかを計測できるスマホのアプリが存在します。

これらを使っておおよその受信強度を観測できますが、これも注意が必要です。なぜなら、スマホが観測する受信電力は、あくまでスマホが内蔵するアンテナを介して観測した電波の強度だからです。

スマホが搭載するアンテナを通して眺めた空間中の電波の様子を捉えていることに注意が必要です。

IoTデバイスを設置しようとしている場所と同じ場所で電波強度を観測しても、いざIoTデバイスを設置すると、(スマホとは異なるアンテナが内蔵されていますので)異なる受信電力となってしまうのです。

スマホで観測した受信電力が-80dBmだから大丈夫だと思っては危険です。

できれば10dBくらいの余裕が持てるよう、つまり、スマホで観測した受信電力が-70dBm以上となるように基地局の設置場所を調整しましょう。これによってIoTデバイスの無線通信環境はより安定したものになるでしょう。

    

著者

代表取締役社長 古川 浩

PicoCELA株式会社
代表取締役社長 古川 浩

NEC、九州大学教授を経て現職。九大在職中にPicoCELAを創業。
一貫して無線通信システムの研究開発ならびに事業化に従事。工学博士。